風俗を卒業して税理士を目指す! 将来は簿記教室で資格支援がしたい|【後編】

風俗を卒業して税理士を目指す! 将来は簿記教室で資格支援がしたい|【後編】

インタビュー前編では、Hさんが夜の仕事を始めた経緯や簿記の資格を取るに至ったきっかけ、税理士を目指す理由を伺いました。
後編では、勉強のモチベーションや勉強時間の作り方、今後したいことを伺っていきます。

「簿記はパズルみたい」とその楽しさに気づき、さらに税理士を目指す

「簿記はパズルみたい」とその楽しさに気づき、さらに税理士を目指す

角間:今回のテーマが「セカンドキャリア」ということですが、次に進みたいと思うきっかけ(動機)は人それぞれです。人に言われたからとか、年を重ねたからとか、子どもが大きくなったからとか。理由はさまざまですが、「そのためになにをしようか?」と考える際に、実は傾向があります。それは、「まずは資格を取ること」に関心が向きやすいということです。

その理由として、ふたつあると思います。ひとつは、手段としてわかりやすいから。試験を受けて合格すれば、なんらかの権利や保証が得られるという明確さがある。もうひとつは、夜の仕事をしているという立場がバレることなく、とりあえずなにかできるから。専門的な学校に行かずに受験できる資格というのは割と多い。

一方で、「どうしてもバレたくないけど自分を変えたい。ひとりで資格を取って頑張ろう」という人は、続かない傾向が散見されます。Hさんの場合、勉強のモチベーションってなんだったのでしょう。

Hさん:簿記の勉強をして、「なにか楽しいぞ。これなら続くんじゃないか」と気付いたのが、モチベーションのきっかけでした。それまでも、勉強に手を出すも途中で諦めたり、また再開したりを繰り返してはいたんですけど。

角間:簿記が性格的にマッチしたというのもあると思いますが、具体的になにが楽しかったですか。

Hさん:簿記はパズルみたい。意外とそんな細かい話じゃなくて、結構大雑把だし。スーパーの仕事の人に恩返ししたいなという気持ちもありました。

角間:もともと向いていたというだけじゃなくて、簿記の楽しさを見つけたのもあるし、あとは自分が頑張った結果、喜んでくれる人、それに価値を感じてくれる人が身近にいたから続けることができた。それで2級を取って……。

Hさん:調子に乗っちゃって(笑)。

角間:いや、それは大事だと思います。今は税理士という目標ですね。

Hさん:はい、目指しています。

過去を開けっ広げにして生きていきたい! それには精神力とスキルが必要

過去を開けっ広げにして生きていきたい! それには精神力とスキルが必要

角間:すごい! さらに今はより上を目指そうとしている。改めてこのモチベーションはなんなのでしょうか。

Hさん:かつて風俗にいたことをちょっと恥ずかしい、公には言えないなと思っています。ただ、私は、「社会に疎外されて夜の世界に入ってしまったなあ」という思いがすごくある。だから、一言、申し上げたいとは思っています!

角間:世の中に?

Hさん:はい。過去を無駄にしたくない。恥ずかしいとか失敗したことだからと埋もれさせていくと、どんどん自分の心の下のほうにたまっていって、苦しいんですよ。だから、それを開けっ広げにしても生きていけるような自分になりたいと思っていて、それにはやっぱり、精神的な強さが必要だし、スキル的な強さも必要。それには肩書きと実力も付けて、その上で立場を明かして仕事をしていきたいなと思っています。

それで、自分の悩みが少しは解消できるかもしれないし、トラウマをもってしまった人に気持ちを伝えられるかもしれない。私の場合は、理解してくれる人が全然いませんでした。理解してくれる人がひとりいるだけで、心の楽さって全然違うんですよ! 私はそこを変えたいなと思っています。

みんな一緒、みんな時間がある(笑)。やるかやらないかの違い

角間:そうした思いが、Hさんのモチベーションを支えているんですね。しかし、スキルを身に付けるには時間が必要だと思います。仕事を昼夜しながら、資格の勉強をする時間はあったのですか。

Hさん:1日3時間だったら、だれでも空いていると思うんです。1日3時間を1年続けたら、税理士試験は合格するのではないかと。1,000時間勉強したら1科目取れます。だから、厳しいことを言っちゃうと、時間がある、ないというよりも、みんな時間がある(笑)。条件は、みんな一緒だと思っています。ただ、やるかやらないかの違いで。

角間:Hさんには、「時間というものは資本だ」という感覚があったようですね。それは昔からですか。

Hさん:いいえ。ただ、ネットで資格のサイトを検索すると、出てくるんですよ。簿記2級200時間、簿記1級1,000時間、簿記論1,000時間、財務諸表論1,000時間、法人税法1,400時間。

角間:よく覚えていますね(笑)。

Hさん:試験に受かりたいと思ってネットで検索すると、勉強に必要な時間がわかって、どんどん頭に入ってきました。「1,000時間やれば」とか、「1,400時間あれば」とか。それを1年で日割りしていったら、1日3時間だったんです。じゃあ、勉強するために、ご飯食べたりお風呂に入ったりする時間を削ろう、という話です。

新しいことを始めると人生が変わる。私は簿記教室をやりたい

角間:今は、税理士事務所に勤めながら、税理士を目指しているわけですが、今後やっていきたいことはありますか。

Hさん:苦しんでいる人やブランクがある人向けの、簿記教室をやりたいです。夜の業界もそうですし、中卒で引きこもっている人たちなどを対象に。「資格だけ取っても実務経験がないと意味ないよ」とみんな言うんですけど、やっぱり新しいことを始めると、絶対新しいイベントが起こって、自分の人生が変わる。

そういった意味で、私は簿記が好きで、簿記ですごく人生が変わった。ニーズがあるんだったら、簿記を教えていきたいなという気持ちがすごくあります。

角間:もしHさんがそういう場を作るのであれば、夜の仕事をしているという立場を明かしても安心だし、共有できる。言える場があるというだけでも安心ですね。

Hさん:そうですね。言える場を作っていきたい。

人から言われたことを素直に聞いて、とりあえずやってみる

人から言われたことを素直に聞いて、とりあえずやってみる

角間:結構多くの人が、僕のところに夜の仕事を辞めたいと相談に来るんですけど、突然「辞めました」と言う人は、また戻る確率が高い。だから、今の立場を辞める、辞めないじゃなくて、なにかの「習慣をつくる」ということが重要だと思っています。

人って、「自分=なんの仕事をしている者だ」みたいな言い方を日常的にします。でも、本当に大事なことは立場じゃなく、習慣がどうなっているかということだと思います。

そういう意味においては、Hさんは、周りの環境があったので、こつこつ頑張れた。ひとつのものに向かって、きちんと時間を使っていくことができて、それをクリアすると、また次の目標が見えてきた、という感じだったのですね。

Hさん:周りの人の言うことを素直に聞いて良かったです。やれと言われたことは、とりあえずやってみるというのが良かったなと思います。

角間:資格を取るための習慣がついたというのは、すごく大きいかなという気がしますね。ということで、読者の皆さん、続けること、習慣が大事ですよ。なんだか、受験生にも響くような内容でしたね(笑)。最後に、読者の方にメッセージをお願いします。

Hさん:辛いことがあると、疑心暗鬼になって、人の言っていることを素直に聞けなくなると思います。アドバイスに対しても、「利用されるのでは?」とか。でも、そうすると動けなくなってくるので、とりあえずやってみること。人から言われたことは、やってみてから考えるようにしたから、私はすごく良かったなと思っています。

サポータープロフィール

角間 惇一郎

角間 惇一郎

  • GrowAsPeople代表理事

1983年、新潟県生まれ。建築業界で働いていたが、2010年の「大阪二児遺棄事件」に衝撃を受け、夜の世界で働く人の孤立を防ぐ事業を始めたいと思い、脱サラ。2012年、『一般社団法人GrowAsPeople』を設立。東京都荒川区を拠点に活動する。性風俗産業にかかわる女性たちのセカンドキャリア支援、のべ数千人に上る実態調査による統計算出などに取り組む。著書『風俗嬢の見えない孤立』(光文社新書)

この記事はシリーズになっています

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いつかは「卒業」。生涯現役は難しい職種。だからこそ今、精一杯頑張っているはず。皆さんにとってこのシリーズが、卒業へ向けてやるべきこと、卒業した後のことを考える少しの手助けになれば。

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