2017年8月7日 更新

風俗こそが私の居場所であり天職~私生道(しせいどう)~

風俗こそが私の居場所であり天職~私生道(しせいどう)~

風俗からの脱落2割、卒業5割、残りの3割は?

前回『風俗からの卒業』では、風俗業界で働く女性の「行く末」について書きました。早々に脱落する人が2割、目標を達成し業界を卒業してゆく人が5割。では、残りの3割の女性たちは、一体どんなふうになってゆくのでしょう?

風俗業界に入り、やがて卒業する日

今回のコラムは、その3割「ずっと風俗業界にかかわって生きてゆくこと」を選んだ女性にスポットを当てたいと思います。

Case1. オーナーになる女性たち

風像店オーナーになる女性たち

僕がかつてデリヘル店のオーナーとしてやってこれたのは、あかね(仮名)さんという女性オーナーのおかげなのです。彼女は、某地方で普通の主婦として数年過ごし、離婚を機に26歳で大阪に引っ越して、紆余曲折を経てデリヘルで働くようになったそうです。それから10年間を現場で踏ん張り、36歳でデリヘル店を独立開業。

ひょんなことから、僕は彼女と出会い、彼女から風俗店の店主としての「すべて」を授かりました。極力予算をかけずにお店の認知度を高めてゆく「ネット戦略」を始め、経営の直接的なマニュアルから現場の女の子たちに対する接し方まで。

そんな彼女から、こんなことを言われました。

良きオーナーの条件は、「現場に出ていた」という経験なの。風俗のお仕事は、誰でも「大変だろうな」って想像は付くものだけど、想像と現実はやっぱり違う。現場の女の子の喜びや痛みに寄り添うには、本物の「理解」が必要なの。それには、「経験」が、ものすごく大きいのよ

それは、男の僕にとって「重い言葉」であると同時に、風俗店のオーナーとはどうあるべきかを深く考えるきっかけにもなりました。

現場を経験できない人間だからこそ、オーナーとして、より謙虚でより細やかでいなければならない。

僕が目にするあかねさんは、ランナーズハイのように働き続ける子から、転々虫の予備軍、無断欠勤を何度も繰り返す子まで、すべての人材を「人財」として、誰も漏らすことなく大切に育てていました。時には厳しく、時にはやさしく、母となり、姉となり、友となって、心に寄り添う。その姿はまさに生きた教材であり、駆け出しの僕の指針だったのです。

現在、現場を経験した女性オーナーは、そう珍しくありません。一大チェーン店グループの社長になっている方もいるくらいですし、現場を卒業して風俗店を開業することは、すでにひとつのパターンとして確立されていると思います。これを読んでいる現役のあなたも挑戦してみませんか?

Case2. サポートに回る女性たち

サポートに回る女性たち

次のケースは、僕が現在、執筆させていただいているこの『みっけStory』や『Fenixzine』を見回していただければわかると思います。両媒体には、現場の女の子として経験を積み、実績を残した人ならではのアドバイスをライターとしてつづる方から、さらには、現役の女の子をサポートする団体を立ち上げてしまったすごい方までいます。

現役時代の経験を活かし、風俗で働く女の子の「サポーター」としてさまざまな活動をしている女性たちは、この業界に欠かすことができない存在です。

仕事で壁にぶつかった現役の女の子にとって、灯台であり道標

再度、師の言葉を借りますが、「経験」が、ものすごく大きいものなんですね。女性オーナーにしてもそうですが、彼女たちはトライアスロンのような業界をリタイアすることなく完走したわけですから、後続の指針であり、コーチのような存在です。

どんな仕事においても、理屈倒れじゃない助言を紡ぐには「経験」が必要で、風俗の現場を生き抜くための英知を後輩につなぐ役目は、彼女たちにしかできません

少しでも現役で、現場で頑張る女性の、力や支えになりたい

これは、サポートに回る皆さん全員に共通する熱い想いです。ただ、彼女たちはそれを職務として行えるようになるまで、才能や運、努力を試されています。そして、そんな先輩たちの頑張りのおかげで、現場を卒業した女の子が活躍できるフィールドの裾野は確実に広がっており、その広がりがやがて進路として確立される日も、そう遠い未来ではないでしょう。

「卒業後は現役の女の子のサポーターとして生きたい!」と願う女性の皆様には、業界の先輩である旅寅(おっさんですが)が、第16代アメリカ合衆国大統領のエイブラハム・リンカーンの言葉を送ります。

意志あるところに道はある

Case3. 転々と、老いるまで

転々と、老いるまで
前回と今回のコラムでは「卒業」をテーマに、「風俗業界に入った女性の行く末」をつづってまいりました。早々に脱落する人が2割、目標を達成して業界を卒業してゆく人が5割、そして、残りの3割の卒業後も業界に身を置き続ける(もしくはかかわり続ける)人を描いたのですが、実はここまであえて書かなかったパターンがあります。

それは、何度も風俗店を辞めては出戻りを繰り返す転々虫の人たちです。もう転々虫に関しては当コラムで散々触れてきたので割愛させていただきますが、「すぐ店を辞める→ブランクを経る→違う店に移る」のらせんから抜けられない子に対して、師匠のあかねさんがこぼした言葉が今でも忘れられません。

風俗の仕事を何となくでもできちゃう女の子って、実は大勢いる。でも本来、女にとって風俗の仕事は覚悟とけじめをもってすべき仕事だと思わない? 私はそれだけのことをしていると自覚してたから、簡単に辞めるつもりも、また戻るつもりもなかった。女は度胸と引き際よ。女々しい男みたいになっちゃダメ。腹を据えて働いて、辞めたら絶対戻らない。そういうのって時代遅れかな?

それから数年後、僕はデリヘル店を畳み、ライターに転身。彼女は僕の文章を読むことなく、病気で亡くなってしまいました。本稿は、彼女への謝意で終わりたいと思います。

あかねさん、今回はネタにさせていただきました。もろもろ「超特大」のありがとうございます。あなたという花を胸に、今後も僕にしか書けない文章で、あなたの後輩たちを描いてゆく所存です。

サポータープロフィール

旅寅

旅寅

  • ライター

大阪在住、43歳のお父さんライター。はてなブログ『夜行性サナトリウム』を2016年より運営。同ブログ内で発表した複数の記事が、はてなブックマーク総合ランキングで1位を獲得したことにより、はてな有数の「バズライター」として知名度を上げ、本格的に執筆活動を開始。同年、カクヨムにて発表した『造花』がカクヨムエッセイコンテストの最終選考に残るなど、精力的に活動中。著作に『日向のブライアン』がある。

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